江戸遺跡研究会会報 No.107、pp.2-3


第20回大会を終えて

寺島孝一(当会世話人)

 本会の前身である「江戸遺跡情報連絡会」の第1回例会が開かれたのが1986年10月であった。 それから20年がすぎた。

 第1回の会報でかかげた本会設立の主旨は、

  1. 「江戸」遺跡を発掘している者が、互いの経験・情報を交換しあう。
  2. 江戸時代の遺跡では、単に考古学的な方法だけでなく、文献史学・建築学など関連諸分野の知識が不可欠なため、この方面の専門家の話を伺う機会をもうける。
  3. 上記の発表をまとめ、また「江戸」遺跡の発掘など最近の情報を広く知ってもらうための速報を内容とする「連絡誌」を発行する。というものであった。

 この間、毎月開いていた例会を隔月にし、年に一回の大会を開催することとし、年ごとにテーマ を定めて開いてきた。例会は(夏期の特別例会を含めて)これまでに107回に達し、大会は20回を 数えることとなった。

 本大会は、千代田区・新宿区・文京区による「徳川御三家江戸屋敷発掘物語」の共同展示とあわ せ、また新宿区教育委員会の御協力(共催)を得て「江戸の大名屋敷」をテーマとした。

 大会趣旨では「これまで、大名屋敷について都市空間のひとつとして、あるいは国元との関係な ど」にいつて考えてきたが「近年の大規模再開発事業に伴う大名屋敷の発掘精かを中心に、今まで 蓄積した大名屋敷の調査成果」をふまえて「遺構・遺物による屋敷の空間構成をはじめ、屋敷構造 の実態や大名屋敷が都市化に果たした役割」などについて、検討するとした。

 今大会は、これまでの19回が関連する諸分野も含めいずれも研究者がおもな参加者であったのに たいし、「御三家展」にあわせた大会であり、また新宿区教育委員会の協賛を得ていることから、 一般の方々の参加が多く見込まれた。

 世話人会でもこれに対応して、一般参加者が理解でき、興味をもてるような内容に、どのような 内容や表現にしてゆくのかについてさまざまな議論がなされが、その結果がどうであったかは大方 の御批判を待ちたい。

 この20年のあいだに、江戸時代の発掘調査は全国にひろがり、また、近年の景気の後退による開 発件数の減少、さらに文化庁による「近世遺跡」差別見解の公表などの「逆風」はあったものの、 江戸遺跡の研究は長足の発展をとげたといってよいであろう。

 当研究会に限ってみても、大会の成果を纏めた『江戸の食文化』(吉川弘文館)や、世話人を中 心に執筆した『江戸考古学研究辞典』(柏書房)など、いくつかの単行本を刊行し、一定の評価を うけている。また、江戸時代の遺跡発掘の記事が新聞などのメディアに紹介されることも多く、今 回の「御三家展」のように、江戸遺跡を扱った展覧会もおおく催されているようである。

 とすれば、「江戸遺跡」は江戸研究のなかで、一定の位置を占めつつあるともいえよう。

 ただ、本会の目的の一つに、関連する諸分野との交流を掲げているにもかかわらず、文献をはじ めとする、江戸時代にかかわる諸分野の研究者の参加がきわめて限られているなど、これからへの 課題はますます大きくなっているといえるのではないだろうか。「業界用語」の是正は以前から指 摘されていることであるが、「敷居」を取りはずすには何が必要なのか考えるべき時にきているの かもしれない。その意味からも今回の、一般参加者を多く迎えた今回の大会は、今後の研究会のあ り方を考えるうえで、重要なステップであったともいえよう。

 末尾ながら、11月25・26両日にわたり、四谷区民ホールを使用させていただき、またさまざまな 御支援をいただいた新宿区教育委員会に、深く感謝の意を表します。


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